後玉が黄変した280gの5群6枚は、濃厚でハイコントラストな描写をする.
おすすめ度
購入のしやすさ 7/10
Canon FL 50mm F1.4は、中古市場で非常に流通量が多く、状態の良い個体も容易に見つけられます。その中でも、 Ⅰ型は千~四千円程度で購入可能です。ただし、製造番号 ~30,000 の個体限定(恐らくⅠ-1型)で探すと、流通量は激減します。製造番号 ~30,000の価格は、30,000~の個体に比べ、若干高くなる傾向にありますが、その価格差は僅かです。
使いやすさ 9/10
FLレンズですが、FDマウントアダプターの使用が可能です(後述)。これにより、Aモードにしておけば、FDマウントアダプターの開閉環から、プリセット絞りで決めた値まで開閉が可能です。重量は重めですが、長さが短かく前玉が極端に大きすぎないので、フロントヘビーではなく、扱いやすいです。操作系はオーソドックスな仕様です。逆光耐性が弱めで、フードの使用が推奨されます。ピント面は、薄めに感じます。
現代レンズと比較した描写の独自性 8/10
- 酸化トリウム(放射能レンズ)の恩恵なのか、黄変の影響なのか不明ですが、非常にこってりとした色のりの描写になります。
- かなり、ハイコントラストな描写です。
- 開放では、光源ボケがレモン型になって表れます。これは、FL 50mm F1.8と同じです。
- ぐるぐるボケは、巧くコントロールされて、表れにくくなっています。
- 二線ボケやフリンジが表れます。
- 逆光では、前面にフレアが覆い、低コントラスト・低解像になります。加えて、虹のゴーストも現れます。
総合 8/10
この構造で、現在の流通価格は非常に安すぎます。コストパフォーマンスが優れたレンズです。さらに、十二分にオールドレンズらしい描写も堪能できます。マウントアダプター問題から、嫌煙されがちなFLレンズですが、このモデルはFDマウントアダプターと互換性がありますので、使用上の問題もありません。素晴らしいレンズですが、このレンスが、「放射性を発していること」をあまり気にしない人に、おすすめです。
このモデル
Canon FL 50mm 1.4には、外観から2つ以上のモデルが製造されたことは間違いがありません。
混乱の背景
webでは、以下の理由でかなりの混乱があります。
- CANON CAMERA MUSEUMにはFL 50mm 1.4が1965年モデル(4群6枚),Ⅰ型 5群6枚(1966年~),Ⅱ型 6群7枚(1968年~)の3種類が収録されています。
- このうち1965年モデルとⅠ型(1966年~)は外観がそっくりで、区別が付きません。
- 1965年モデル(4群6枚)には、280gと重量の記載があるのに対して、Ⅰ型(1966年~)(5群6枚)のページには重量が記載されていません。
- Ⅱ型(1968年~)6群7枚は、Ⅰ型(1966年~)と比較して、銘板の角度が急になっている、M/A切り替えがマウント付近に移動している、全長が長くなっているなど、外見上判別が容易です。
- Ⅱ型(1968年~)の銘板にはⅡ型と記載されている個体と、記載されていない個体が存在します。
最大5モデルに分類し、4つを入手した
以下の5つ分類を用いて呼称することとします。
4つのFL 50mm 1.4を入手しましたが、4群6枚のモデル (Ⅰ-0型)については、入手出来ませんでした。
- Ⅰ-0型:1965年モデル(4群6枚)280g(カタログスペック)
- Ⅰ-1型:280g(実測) 後玉が黄変して放射線を発する、5群6枚 (No 15,***)上写真 左前
- Ⅰ-2型:260g(実測) 放射線を検出できない、5群6枚 (No 78,***)上写真 左後
- Ⅱ-1型: 360g (実測)銘板に“Ⅱ”と表記のあるもの(No 152,***)上写真 右前
- Ⅱ-2型: 360g (実測)銘板に“Ⅱ”の表記がないもの(No 240,***)上写真 右後
このページで扱う個体は、シリアル番号 15,732(上写真左前)です。 この固体をⅠ-1型としました。
このレンズが5群6枚の根拠ですが、前玉が3枚に分かれます。レンズ構成図は、LENS-DB.comに掲載されていたものをトレースしました。
FL 50mm F1.4は、3モデルが製造されたのではないか?
以下、私の想像です。
1.1965年モデル(4群6枚)で記される4群6枚の表記は誤りで「5群6枚」が正しいのではないでしょうか?
1965年モデルは、後玉に酸化トリウムを用いた5群6枚 280gのモデルで、
Ⅰ型(1966年~)は、同じく5群6枚で非放射性硝子材を用いた、260gのモデルだと思います。
2.Ⅱ-2型ですが、単にモデルチェンジから時間が経ったため、Ⅱの表記を削除したと想像します。
そうだとしたら、以下の3タイプに分類するのが正しいのかもしれません。
- Ⅰ-1型:280g 後玉が放射線を発する、1965年モデル5群6枚 (No 15,***)
- Ⅰ-2型:260g 放射線を検出できない、5群6枚 (No 78,***)
- Ⅱ型: 360g 銘板に“Ⅱ”と表記のあるもの(No 152,***)と、銘板に“Ⅱ”の表記がないもの(No 240,***)
この様に考えると、CANON CAMERA MUSEUMに FL 50mm 1.4が3モデルだけ収録されているのも納得がいきます。
放射線について
ところで、Ⅰ-1型のこのレンスの後玉は、近接すると、かなりの放射線(β線)を検知できます。もっとも、50cm以上離れると検出量は低減し、1m離れるとバックグランドと差が無くなります。常時身につけるものではないため、私は、健康への影響は無視できるレベルであると思います。
しかし、大きな疑問が残ります。
こんなに放射線を発していて、フィルムが感光しなかったのでしょうか? 今よりも安価であったとしても、ショット間のインターバルはデジタルカメラよりも長かったと思います。
撮影準備
ですので普通のFDマウントアダプターが使用可能で、Aモードでマウントアダプターから、プリセット絞りに決めた開口度まで、絞りの開閉が可能になります。
初期のFLマウントレンズには後端が平坦でなく、FDマウントアダプターの絞り制御ノブと干渉するものがあります。
最短撮影距離0.6mですので、最短撮影距離を短縮する可能性を考えて、FD-LM + LM-NEX(マイクロヘリコイド付き)を用いました。
撮影(作例)
かなり色のりの良い描写です。
開放の描写では、レモン型の光源ぼけ(口径食)が、派手に表れます。
フリンジや二線ボケが発生することもあります。
逆光では、画面全体にフレアが表れます。虹色のゴーストも出てきます。この様な状況では、低コントラストになります。
絞り込むとシャープになります。
絞り込んでも、ハイコントラストで色のりの良い像は、維持します。
ありがとうございました。