円形ボケに溺れる。
おすすめ度
購入のしやすさ 3/10
Protarは、流通量が比較的あり、珍しいものではありません。そのため、Rossのレンズの中では安価に設定されています。その中で、焦点距離5インチは汎用性が高く高値です。
使いやすさ 5/10 (8/10)
ポジティブ評価要素
- フランジバックは比較的短いです。レンズ先端からEマウントまで(12.5cm)で、無限遠が出ます。これは古典レンズにしては、かなり短いです。現代レンズと比較しても、決して全長は長くありません。システムが小型で収まります。
- 本体重量(122g)、マウントアダプターをPLA素材で製作すると、M42‐NEXマウントアダプターを除いた、システム全体で軽量(244g)で、古典レンズにしては、かなり軽量です。
- 合焦作業の際に、移動量が少なく、非常に使いやすいレンズです。
- 柔らかいですが、十分な解像度を持ち合わせています。
- 35mmフルサイズセンサーではレンズの中心部を用いるためか、収差が少なく端正な写りになります。
ネガティブ評価要素
- 市販のマウントアダプターが無いため、低く評価せざるを得ません。
- 逆光耐性は低めです。絞ってもフレアが発生しがちです。
- 開放F値 6.3は暗いです。シャッター速度1/500を確保すると日中屋外は問題なく撮影できますが、室内や夜間は難しくなります。
現代レンズと比較した描写の独自性 6/10
Tessarには及びませんが、ピントの山は非常にわかりやすく、合焦させやすいレンズです。シャープさはありますが、シャープすぎません。このレンズの特徴は、開放時のボケの「うるささ」だと思います。ボケは、円形が形成されボケていくため、大量にバブルボケが発生します。
総合 6/10
初期Zeissの屋台骨のレンズです。もう少し癖のない写りをするのかと思いましたが、円形ボケに溺れるような、非常に特徴的な描写をします。安価な個体で短めの焦点距離の個体があれば、非常に楽しめると思います。後はマウントアダプター問題だけが残ります。
このモデルと個体
Zeissのライセンス下で、Rossが製造したDoppel Protar型で、Ser. VIIa No4 5inch (128mm) F6.3です。これは、Ser. Ⅶ No2 9inch (224mm) F12.5を左右対照しにした構成です。Camera Eccentricに掲載される1909年、1927年Zeissのカタログによると、2群8枚の構成です。
Wikipedia(日本語)によるとProtarの製造は、Zeissのライセンスの下に、Ross以外でも、Bausch LombやE.Kraussで行われました。
この個体はebayで英国の出品者から購入しました。レンズ前群と後群には連番のSerial Numberが記されています。この番号は”Zeiss 10,208″と表記されています。これがZeissのシリアルナンバーなのかRossのシリアルナンバーなのか不明です。もし、Zeissだとすると、Camera wikiから1890年代の製造ということになります。 もし、Rossだとすると、Camera wikiから1860年代の製造ということになります。1890年に開発されたProtarは、Wikipedia(日本語)によると1900年からProtarの名称が使用されています。ここから”Zeiss 10,208″は、Zeissのシリアル番号で1890年代の製造だと思います。このレンズの特徴的な絞り表記板については、後で付けられたものとは思えない完成度ですが、詳細は不明です。
撮影準備
M42フランジバックに合わせマウントアダプターを出力しました。このレンズにはヘリコイドがないため、回転式ヘリコイドを組み込みます。
このアダプターをPixco M42-NEX ヘリコイド付きマウントアダプターに接続します。
(バシュポ) Pixco ヘリコイド付きマウントアダプター M42レンズ-ソニーNEXカメラボディ対応 m42-NEX(楽天)
撮影(作例)
開放時には、遠景が丸くボケます。
少しうるさいくらいです(拡大)。
1段絞っても、このような背景ですと、うるさく感じます。
日陰では、気にならない描写になります。100年前のレンズとは信じられない、端正な描写をします。
白は苦手です。
半逆行~逆光でフレアが生じ、低コントラストになります。
一方、黒はかなり粘って、写し取ります。
現代のレンズには全く及びませんが、解像力も十分あります。
ラージフォーマットのレンズの中心部を使っているからなのかもしれませんが、少なくとも35mmフルサイズセンサーの端であっても、中心部と同様に解像しています。
古典レンズにしては、かなり使いやすい(扱いやすい)レンズです。
ありがとうございました。